2005/7/28 木曜日

【yanaコラム】王国の衰退

優勝10回、準優勝9回。何の数字だかわかるだろうか。
高校サッカーの頂点を決める全国高校サッカー選手権。
その大会における静岡県代表の成績である。
このダントツの成績は他の追随を許さない。
言わずと知れたサッカー王国静岡。


しかし、今、王国はかつての勢いを失っている。
 全国高校サッカー選手権において、静岡県勢は1995年(第74回)から優勝はおろか決勝進出すらなくなっている。しかも、1995年大会では静岡学園の鹿児島実業との同時優勝だったことを考えると、単独優勝という意味では1993年の清水商業の優勝以来その栄冠から遠ざかっているのである。しかも最近では今年が3回戦敗退、その前は2年連続で一回戦敗退という事態にまで陥っている。最近ではベスト4に残ることすら稀になっているのだ。

 静岡県がここ10年で一度も優勝することができていないのは静岡が弱くなったからなのだろうか。それとも何かほかの原因が存在するのだろうか。あるとするならば、それはどういった原因なのだろうか。かつての輝きを失った王国に復活の日はやってくるのだろうか。

 まず、静岡県自体のレベルはどうなっているのかについて考えてみたい。最近10年を仮に前半5年、後半5年と分けてみよう。前半5年では、選手権の成績は優勝こそ逃しているとはいえ、ベスト4進出2回・ベスト8進出1回といった結果を残している。選手も、現在の日本代表を背負う小野・高原をはじめとして、静岡県からは優秀な選手が数多く誕生している。しかし、後半5年に限って言えば、平山・大久保のように高校時代から全国規模で騒がれる選手というのは登場していないうえに、結果も悪くなってきている。このように見る限りでは「静岡勢は弱くなった」といわれても仕方が無いかもしれない。

 では、全国のレベルはどうなっているのだろうか。

 今でこそサッカーといえば野球すらしのぐ人気のスポーツだと言えるだろうが(特に日本代表の人気はすごいものがある)、以前はとてもとてもそんなことは言える状況ではなかった。
しかし、Jリーグが開幕し、サッカー日本代表がワールドカップに出場できるようになって、サッカーというものが間違いなく人々の間で認知されるようになった。日本代表はワールドカップの常連になりつつあり、多くの日本人選手が海外リーグでプレーするようになった。
 サッカーは中学生が部活を選ぶ際の確かな選択肢の一つとなった。いまや確実にサッカー人口は増えている。着実に底辺の底上げが起きている。

 つまり、全国的にサッカーのレベルが上がり、相対的に静岡県の地位が低くなりつつあるのだ。これを否定することは到底できないことだろう。

 では、他には原因が無いだろうか。

 静岡県のサッカー強豪校と言えば藤枝東、清水商、清水東、静岡学園の四校が挙げられる。どの高校も一度は全国制覇を果たしたことのある伝統校である。高校サッカーに興味がある人ならどの高校も一度は名前を聞いたことがある高校ではないだろうか。毎年の静岡代表はこの4校の中から決まっているといっても過言ではない。この4校が中心となって、お互いに切磋琢磨しあい、静岡県勢は力をつけていったのである。

 当然、静岡県代表として全国に進出するには県予選の段階でこれらの強豪に勝ち抜いていかねばならない。私は王国低迷の原因は皮肉にも静岡がサッカー激戦区だからこそ起きた問題だと捉えている。

 一時期、「静岡代表になることのほうが全国優勝するより難しい」と言われていた。静岡県はそれほどのサッカー激戦区なのである。

 実際、静岡県がどれくらいの激戦区かを物語るエピソードを紹介しよう。
小野伸二という選手がいる。現在フェイエノールトで活躍する彼は清水商業にいた。だが、当時から天才の名をほしいままにしていた小野伸二擁する清水商業も、彼のいる三年間で一度も選手権に出場することができなかったのである。彼がいかにずば抜けた才能を持っていてもサッカーは個人競技ではない。静岡県予選を勝ち抜くことはできなかったのである。

 他県の代表はどうなっているのだろうか。例えば青森では青森山田高校は8年連続で高校サッカー選手権に出場している。千葉の市立船橋は6年連続。鹿児島実業は4年連続。長崎の国見に至っては過去19年連続で選手権に出場している。
 では静岡ではどうだろうか。静岡県の歴史を紐解いてみると、それほどの長期政権を成し遂げた高校など存在しない(昭和30年台に藤枝東高校が10連覇を果たしたことがあるが、そのころはまだ他の3校はサッカーに力を入れている段階ではなく、強豪校と呼べる存在ではなかった)。昭和40年以降3年以上連続で選手権出場を果たした高校は無いのである。

 つまり、静岡県には絶対的な高校が存在しないのだ。強豪校が乱立し、せめぎあう。それが静岡サッカーの発展の歴史でもあったわけだが、現在ではそれがマイナスに働いてしまっている。強豪校が多いゆえに優秀な戦力が分散する。相対的に静岡の地位が低くなりつつある中での、戦力の分散。結果、全国で勝てなくなる。

 こうした静岡に特異な構造にこそ王国衰退の真の原因が存在するのではないだろうか。

 例えば、である。長崎県に住むサッカーのうまい中学生が国見高校以外に進学したいと思うだろうか。全国制覇をしたいと願う鹿児島のサッカー少年が鹿児島実業以外に進学するだろうか。答えは否、である。
 しかし、静岡県では少々事情が違う。選択肢がありすぎるのだ。そしてそれだけ戦力が分散していながらも、そこそこの成績が残せてしまうだけの県全体としての層の厚さ。それゆえ、静岡勢の不振が世間においてそれほど話題になることも無かったのではないだろうか。
 
 高校サッカーファンにとって、静岡代表というものは、やはり特別な存在である。

 今年も、8月上旬のインターハイを皮切りにサッカーの季節が始まる。王国はこのまま消えていくのか。落日の王国に日はまた昇るのか。静岡サッカーの今後に注目したい。

 静岡県の高校サッカー選手権の記録
【優勝10回】
藤枝東4回、清水商3回、清水東1回、静岡学園1回、東海大一1回
【準優勝9回】
清水東3回、藤枝東2回、浜名1回、静岡工1回、静岡学園1回、東海大一1回。

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